新月号

11/19
前へ
/300ページ
次へ
白い靄(もや)の中降り続く雨。 その水が砂を綺麗に洗い流すと、どこまでも平らなコンクリートの直線。記憶の中の西東京飛行場である。 『ヤナギ、どう考えても無理だ。大気圏の外で軌道を変えられた帰還船など捕まえられるワケがない。素手でピストルの弾を捕らえる方が、まだ容易い』 雪也が向かおうとしているのは、飛行場の中央で巨大な翼を休めている白いブレーンシップである。 (これは一体、誰の記憶なんだ?) アズはネックレスの記憶を思考波に乗せると、ラムダナイフを逆手に持ってその先端をアスファルトへ突き立てた。 「シオン! 軍用車をひっくり返す。少佐達を救い出したら、柿丸快衣の車で、走れる所まで走ろう!」 「強引、アズ」 シオンは貫太郎の銃を手にして道の左側を、アズはネックレスを首に巻いたまま右側を駆けた。 ラムダナイフの斥力。 空間が空間を押す力。 濃緑色の軍用車の下のアスファルトが盛り上がり、ズルズルとそれは路側帯へずり落ちて行く。 「少佐は左、ニイフ・キーは右の車輌にいる。本気モード全開で行こう」 車体を斜めにさせた濃緑色から、灰色の軍服が出てくる。 「俺のAクラスの思考波を押し退けるとか、お前ら何者だ?」 「よせ准尉! もしかしたら、こいつ等ナチュラルかも知れん」 ライフルを構える者と、それを抑える者。 ───『心配するなジャーン。こんな時の為に、俺と貫太郎はずっと訓練を続けて来たんだ。無事に戻って来るから、君の自慢のアップルパイをまた焼いてくれ』── (アルミナ・ジャーンの記憶‥‥) アズは斜めのアスファルトの上を、アルミナ・ジャーンの記憶の中を駆ける。
/300ページ

最初のコメントを投稿しよう!

97人が本棚に入れています
本棚に追加