新月号

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《ザ──ツ。 ザ──ツ》 『アルミナさん、ヤナギ先輩は止めても行っちゃう事くらい知ってるでしょう』 後ろから彼女の肩を叩いたのは、柿丸快衣である。 左目の回りをアザで青くしている。 『どうしたんだ柿丸、誰に殴られた?』 『あなたの最愛の人で、僕が1時間ほど前にキライになった人にですよ。記憶チップもおそらくロックされました』 柿丸は革靴の爪先で、足元のコンクリートを蹴った。 先程まで降っていた細かな雨が作った水溜りの水が弾けた。 『ヤナギ先輩とタニグチ先輩を、管制塔で応援しましょう。今の僕達には、それ位しか出来ない』 柿丸はカラリと笑って歩きだした。 笑いはしたものの、アルミナが小走りをしないと追いつけない位の歩幅で進む。 『柿丸。研修生とはいえ私は部外者だ。管制塔には入れてはもらえぬ』 太陽の翼計画を無理に無理を重ねて続けて来た日本は、新物質と斥力のホンの僅かの情報公開と、計画の研修生を受け入れるという条件で、キランとサフスの両陣営から多額の債権放棄を受けた。 アルミナ・ジャーン、ラスカ・ラスカ、サトゥーマ・ゼアンネが、それによる第3期計画の研修生である。 勿論、計画の核心には触れさせない。 『アルミナさん、かと言って、この場所にただ立っているわけにもいかないでしょう』 ビシャリ ビシャリと大股の靴底が水を踏む音。
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