新月号

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アルミナ・ジャーンの記憶はここまでである。 男達がその場を動けずにいるのとは違い、シオンはアスファルトの大きな塊を乗り越えて、ハザードランプを点滅させたままの向かって右側の軍用車へ歩いた。 「シオン‥‥」 アズは次の言葉が思い浮かばないし、シオンはアズの言葉の続きを待ちはしない。 コンコン 後部座席のドアをシオンはノックした。 「ニイフ・キー、起きてる? 私達初めましてなのかしら? お久しぶりなのかしら?」 「久しぶりね、シオン」 後部座席の窓が開いた。 そこで恥ずかしそうに笑っているのは、赤い髪の〈シオン〉である。 「さすがシオン。驚かないのね」 ドアを開けたニイフ・キーは細い足でアスファルトの上に立つと、小さくよろけた。 「大丈夫? ニイフ!」 シオンは手を差し伸べて倒れかかった赤い髪の女の子を支えたのだけれども、その姿勢のまましばらく動かない。 「まいったな‥‥」 その様子を見ていたロブロ・ゼッタは、大きな溜息を1つするとガタガタの道をゆっくりと歩き出した。 「少佐、何がまいったんです?」 アズが慌ててついて行く。 「世界のワガママが起きた時、俺は士官学校の1年生でね。色々と大変だったろう? 軍も人手が足りなくてね。当時サフスが占領したての東京に駆り出されたのさ。あまり思い出したくはない記憶だけれど、ニイフ・キーの場合はそれ以前の記憶は全て無くしていた。それを思い出したみたいだ」 シオンとニイフ・キーは抱き合って泣いている。 (まいったな‥‥) アズも心の中で呟いた。
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