97人が本棚に入れています
本棚に追加
《ザ──ツ‥‥‥お願い‥助けて‥サフスタワーはもう保たない‥斥力に耐えられない‥崩れる》
海からの風が波の飛沫を真横に運んで来る。
「アズ。ニイフ・キーの秘密、いえ、私達の秘密を聞かないの?」
新月号は2つのコクピットを持っていた。
縦に並んだ前方のそれは15年前に射出されて今は無い。
尖った機首の両脇の識別灯は黄色。
長い首の先にある鳥類の目玉のようにも見える。
「色々と事が済んでから聞くよ」
アズが手を伸ばすのと新月号が首を伸ばすのとがほぼ同時。
首を伸ばしきった新月はキャノピーを開き、接岸した機首からコクピットまで風防の側面が段々に開いてタラップが形成される。
「アズ。さっきの声は?」
「サフスタワーに居るF体の誰かだと思う。帰還船を拾ったらそのままサフスタワーへ飛ぶ。もし本当にタワーが崩れたら沢山の‥‥いや、そんな事は絶対にさせない」
アズは段々に足を掛けた。
「そんな事は絶対にさせない。だろう? 新月号」
ギギギギ
翼に打ちつけられる波で、白い機体がゆっくりと揺れている。
最初のコメントを投稿しよう!