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「ふーっ」
タラップの最上段で、アズは思いきり空気を肺に押し込んで、それを静かに吐いた。
新月号は水面に浮く水鳥の様に翼をたたんでいる。
馬鹿げているとアズは思う。
これを作ったが為に、日本は国として体を成さない状態になっている。
太陽の翼計画。
「目的を見失なって、ただ暴走しただけじゃないのか?」
新月号の上に立った時、アズは微かな躊躇い(ためらい)を覚える。
新月号は馬鹿げたほど大きい。それが更に肥大化した何かをアズに感じさせる。
「ここに来て考えるんだ?」
コクピットの前で立ったままのアズを追い越して、シオンはスルリとコアシートに滑り込んだ。
「アズ! サフスタワーが崩壊したらどうなる?」
「それは駄目だ。塔の中には沢山の人がいる」
「第3次帰還船が地表に激突したら?」
「それは無理だ! これ以上、みんなみんな苦しんじゃいけない」
「らしくないわよ、アズ」
シオンがコアシートのパネル下にラムダナイフを差し込むと、新月号を叩いていた波が大人しく機体の下に潜り込んでいく。
ラムダの斥力は赤い色。
白い機体に赤のラインが走り出す。
「シオン、おそらく大変だよ」
「何度も言わせないで。アズの好きなようにすれば良いから」
ギギギギ ギギギギ 新月が翼を拡げる。
「誰も彼もがワガママなのさ!」
アズはパイロットシートへ飛んだ。
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