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「ラムダを海底に沈める? 中佐、惜しい。そうじゃ無いんですよ。サトゥーマ・ゼアンネが僕にして欲しい事は。帰還船をね、ラムダを大気摩擦で燃やさずにですね、無事地球に帰還させてですね、そのまま着陸はさせずにですよ、地表にぶつけるんです」
「な、何!」
柿丸の意識は、赤い色彩の中で薄れて行く。
「中佐、それをする意味とか想像できます? うふふ、本当か嘘かは分かりませんけど、サトゥーマ・ゼアンネは地球のワガママの時に別宇宙の声を聞いたらしいんです。もう1度その声を聞きたいんですって。僕も聞いてみたい。中佐はどうです? でも、無理だろうなぁ、中佐はノーマルに毛が生えた程度の異能しかないから」
「貴様‥‥‥」
鼻から入ったラムダが、脳の中に広がるのを柿丸は感じる。
(だからあの時‥‥)
霧雨の日の西東京飛行場で、非情になれなかった自分が後悔される。
雪也に殴られた左の頬が、今も痛い。
『柿丸、ワガママはいけないさ』
(先輩‥‥‥)
その声も赤い色の彼方からしか聞こえない。
「大気圏に突入します」
赤い髪の女が冷たく言った時には、柿丸快衣には意識が無い。
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