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「タワーから離れろだと? 逆じゃないか。塔の中の人達を助けるべきだろう!」
サフス西海岸時間の朝の5時である。
皮肉にもタワーに最も近いブレーンシップは新月号だった。
「シオン、起きてる?」
「起きてるわ」
「サフスタワーにサトゥーマ・ゼアンネがいる。嫌な感じだ、そして口の中が鉄の味しかしない」
新月は翼で風を受けた。
速度と高度をゆっくりと下げてゆく。
「サフスタワーへ思考波を送る」
「了解」
新月は暗闇の中で目一杯翼を広げ、北からの強風はサラリとかわす。
《サフスタワー聞こえるか? こちら新月号だ。助けに来た。ラムダの斥力で時間を稼ぐ》
首を上に向けた新月が、2本の脚を前に向ける。
本来は太陽の翼計画の帰還船を捕まえる為の太い脚である。
タワーの基礎から1000m程の高さに、光が集中している場所がある。
おそらくはサフスタワーの制御室である。
新月の脚の先には鋭い鉤爪。
翼のラムダの帯が脈動する。
新月は翼を広げたまま、鋭い爪を塔の柱脚の1つへ食い込ませた。
ラムダの帯は上と下。
トラス状の塔の構造体を走る。
《こちらサフスタワー。新月号、感謝する。助けを求めたいと思う。頑張ってくれ》
東の空は、白み始めている。
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