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新月号がタワーに取り付くと、コアシートのシオンはパネルに触れる指先を素早く動かし、複雑な数式を解いてゆく。
不満そうな顔になると、指の動きを止める。
「アズ、1時間しか保たない。鉄骨をつないでいる無数のボルトの軋む音が、ラムダを伝わって来る」
「シオン、その考えは違うよ。まだ1時間は耐えられるんだ。限界まで頑張ろう」
F体の逃亡と外部からの侵入者を防ぐ為、タワーの基礎部分へ通じる山頂までの道は無い。脱出の手段はタワー最下部のブレーンシップ離着陸設備か220階のヘリポートからの移送に限られる。
《新月号の方々、私達もギリギリまで頑張ります。先ずはノーマルの人達から避難の段取りに入ろうと思います》
タワーのF体からの思考波。
「タワーが少し軽くなった」
「うん」
《ザ──ツ。こちらサフス第8航空隊のC337だ。新月号、救助方法の指示をくれ》
赤と緑の識別灯が新月の横を過ぎる。
《ザ──ツ。こちらは第6航空隊だ。旋回しながら指示を待つ》
アズはシオンの顔を見た。
シオンは無言で頷く。
「第8航空隊からタワーの着陸設備に入って下さい。次に第6航空隊のC337の順でお願いします」
未明の北の空には、また新しい識別灯も見える。
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