ガギガギの塔

36/36
前へ
/300ページ
次へ
地球ってのはさ、丸くって広くって大きくて。 だからガギガギの塔が倒れちゃったのを、半年のちまで知らない人は沢山いるはず。 すぐさまそれを知りえる人もいるけれど、その人達が別段偉い訳でも優れているわけでもない。 ただその事象に、近い位置にいただけである。 異能体と新物質の関係も、大体はそんな感じかもしれない。 新月号が麓の町を目指している頃、イアーノウが1つしかない島の波打ち際では、何時までもプロポーズの言葉を言えない青年に、幼馴染の女性が腕を広げた。 青年が何時も困った時に見せる、眉間の皺がくすぐったくて。 「言葉なんか要らないわよ」 青年の肩から力が抜けた。 求婚の証、ピンクの貝殻のネックレスをようやく前に出した。 東海岸近くの朝市では、花売りの女の子がヒョイと立ち上がり、それをすまなそうに見ている油だらけの作業着の男に近付いた。 小さな黄色い花を持っている。 男は戸惑った。 「あ、あのね‥今日はお金がないんだよ」 女の子は勿論、そう勿論、首を振った。 ──小さな黄色い花を、黙って差し出した── 「シオン‥‥あのさぁ‥‥‥」 ぎゅうぎゅう詰めの新月号のコクピットである。 「ううん‥‥言わなくていいわ、アズ」 シオンの白い腕が、シート越しにアズをやわらかく抱いた。 END ありがとう
/300ページ

最初のコメントを投稿しよう!

97人が本棚に入れています
本棚に追加