落ちてきたワガママ

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  「墜ちたのは、三本町の方だね」 アズはシオンの手を取り駆け出した。 「じいちゃん、バイク使うよ!」 少し離れた畑にいる祖父に叫んだ。 そのまま家の倉庫まで走り、ポリタンクのジャガイモのアルコールを、埃まみれな単気筒の400CCに入れた。 貴重な燃料だけれど、何せ不純物が多い。 100年前の単純な内燃機関で、騙し騙し燃焼させる。 「オカルトにしてもローズマリーにしても、この国の空で我が物顔が過ぎるのさ」 アズはポリタンクを放り投げると、再び茜色の空を見た。 残った1機のローズマリーは敗けを認めたらしい。 鉄の臭いをバラ撒きながら、南の空へ向けて翼を翻した。 「余裕だな、オカルトの奴‥」 キランの黒い翼は、逃げる者を追う気などは更々ないらしい。 直翼の複葉をゆっくりと回して垂直に上昇して行く。 年代物の400CC、重いキックペダル。 少年は体重の全てを足の裏に乗せて、1発で混合気を爆発させた。 「あの、墜ちたローズマリーを頂く」 「直す人が居ないじゃない」 「そんなのは僕がやる!」 アズは、タンデムシートにシオンを乗せてクラッチを繋いだ。 小気味の良い単気筒の爆発音と加速は、所々アスファルトが剥がれた道をみぎひだり、縫うように進む。  
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