落ちてきたワガママ

5/5
97人が本棚に入れています
本棚に追加
/300ページ
  人々が斥力(せきりょく)の恩恵を受けて50年が過ぎる。 古くは暗黒物質と呼ばれたそれは、意外にも地表の直ぐ下にあった。 既知の物質が、電磁波を発して可視であり引き合う力を持つのに対し、目には見えずに物を遠ざける力を持つ。 力は存在するのだけれども、物質そのモノは、この宇宙とは次元の異なる別宇宙にある。 「ローズマリーの心臓は第1物質クリル。単純性能だけでもオカルトの第2物質アコーサには勝てないよ」 三本町に行くには、この辺りで1番高い山を越える。 アズは排気音のうるさい単気筒を、その山の頂上付近で休めた。 茜色の余韻の向こう、稲刈りをとうに終えた田んぼ群の中から昇る、一筋の白い煙が東の方へ流されている。 「あのね、バイクに乗りながら話されても、何喋ってるのか解りませんからマニア君」 シオンの頬は泥で汚れている。 アズはその顔を上着の袖でぐいぐいと拭いた。 「可愛顔が台無しだよ」 「ゆ、ゆるす‥‥」 何を許されたのだろう? 言葉が短すぎて分からない。 「よし! じゃあシオン、Z作戦に協力してもらう」 アズ、それはおそらく間違った解釈‥‥  
/300ページ

最初のコメントを投稿しよう!