キランの人々

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  玄関で靴を履いたアズは、両脇にバナナの紙袋を抱えた。 「それじゃドアを押せないだろう」 踵(かかと)の高いブーツを履きながら、ジャーンは手を伸ばして玄関のドアを押した。 玄関は吹き抜け側である。 扉が開かれれば、暖房用の薪が燃えた煙に乗って、昼食を準備する色々な香りが、玄関に迷い込んだ。 「キランは、どうしても貧乏だからねぇ」 靴を履く順番待ちのロマァが言った。 世界が2つに割れた時、世渡りの上手い企業はサフスに靡いたし、落とした人工衛星はサフスタワーには当たらずに、太平洋のど真ん中に落ちて、地表のすぐ下にある第1物質クリルを驚かせた。 新物質同士の衝突は世界の地の表面に伝播して、大地はめくれた。 被害の多くはたまたまキランの領土であり、元々豊かではないその土地の人々は、以来、苦しい生活を続けている。 バナナの袋を抱えて外に出たアズの前のスロープを、小さな女の子2人が駆け降りて行く。 「あ‥‥」 アズは声を掛けそびれた。 けれども女の子2人はバナナがチラリと見えたのだろう。 テケテケテケと立ち止まり、紙袋の方へ振り返った。 アズはその女の子達の所へ歩いて行くと、2、3何かを話して、大きい方の紙袋を赤いスカートの女の子に渡した。 アルミナ・ジャーンはブーツを履きおえた。  
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