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鉄製の薄暗い廊下で、掃除をしている老人がいる。
廊下を右に曲がったジャーンを追わずに、アズは老人に近づき、残りのバナナの紙袋を渡した。
老人が何度も何度もアズに頭を下げるところを見ると、この飛行船で暮らす多くの人達にとって、紙袋の中の黄色い果物が、高価なモノであることは想像がつく。
「アズ、行くぞ」
鉄の廊下にジャーンの声が響く。
曲がった先でアズを待っていたらしい。
アルミナ・ジャーン。
もう怒った顔はしていないし、サーベルもぶらぶらとさせてはいない。
そういう女なのである。
上の階へは階段をあがる。
カンカンと鉄の音をさせながら、アズは頭の奥に、スヤスヤと鳴る5、6人の可愛い寝息を感じた。
新物質クリルの湯船の中であろうか、真っ白いシーツにくるまってのベッド上であろうか、非番の子供達のものなのだろう。
「悪いシステムだと思うか?」
階段の踊り場でジャーンは尋ねた。
「‥‥‥」
アズは自分の考えをまとめようとして足を止めたが、アルミナ・ジャーンは立ち止まらない。
そういう女なのである。
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