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(アズ‥‥ちゃんと寝てなきゃ駄目じゃない‥‥)
シオンは厨房の隅で、ジャガイモの皮を剥き続けている。
カゴに山積みのジャガイモを、料理長が10時過ぎにシオンの前に置いてからずっとである。
「親指が包丁の腹から離れちゃってるわよ」
食器を洗いながら、ピンクの口紅をつけたオバさんが注意してくれる。
料理長は大きな鍋の前に立ち、厨房で働く者達が、生き生きと働く姿を顎髭を撫でながら見ている。
ドゴンゴの各住居は、基本、暖房器具以外の火気の使用が認められていないから、殆どの住人はこの場所で食事を摂る。
「料理長、よろしければ今度、お父さん達の話を聞きたいんですけど」
ジャガイモから目を離さずにシオンは尋ね、料理長は目を細めたままそれに答える。
「思い出は良いものばかりではない。機会があればアルミナに尋ねればいい」
「はい」
「どうやら高度が上がってきたようだ。無事に海を越えられそうだな」
「はい」
シオンはザルの中の最後のジャガイモを手にした。
ジャガイモの皮を剥けるようになった事を、アズに自慢しようと思った。
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