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「シ、シオン! 駄目だよそんなの。あ、危ないから!」
「そ、そうだよ。空賊だってそんなの持ち歩いてないよ」
「そうなの? 私は何時でも、肌身離さずに持ってるわ」
シオンはセミオートマをクルクルと回し、スルスルとエプロンのポケットに入れた。
「父さんの大切な形見」
「あ、あぁ‥‥そうだったね」
──柳雪也のパイロットシートの後ろには、必ず谷口貫太郎が居た。
ラムダ使いが上手かった以上に、射撃の腕が良かった。
アズは父の記憶を振り返った。
雪也が貫太郎に毎日つき合わされた射撃練習場。
30m程離れた的に貫太郎が向けていたピストルが、今シオンのポケットにあるそれ。
「そうだロマァさん、アズに洋服を買ってあげたい」
風呂場に向かいながらシオンが言った。
なるほど。アズが身につけているものは、ジャガイモ掘りの日からずっと変わらない紺色のツナギである。
「構わないよ。これは君達のお金だから。ダッホイの街を散策しながら、アズとシオンちゃんの服を探そう」
風呂場から戻ったシオンは1枚の雑巾をアズに渡し、もう1枚の雑巾でロマァが溢した玄関の水を拭いた。
「ロマァさん。服を探すのは嬉しいんだけど、本当に探さなきゃならないのはヒゲだからね」
アズはしゃがんで、床に飛び散ったミルクを拭いた。
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