ヒゲ中将とラスカ・ラスカ

4/21

97人が本棚に入れています
本棚に追加
/300ページ
  「シ、シオン! 駄目だよそんなの。あ、危ないから!」 「そ、そうだよ。空賊だってそんなの持ち歩いてないよ」 「そうなの? 私は何時でも、肌身離さずに持ってるわ」 シオンはセミオートマをクルクルと回し、スルスルとエプロンのポケットに入れた。 「父さんの大切な形見」 「あ、あぁ‥‥そうだったね」 ──柳雪也のパイロットシートの後ろには、必ず谷口貫太郎が居た。 ラムダ使いが上手かった以上に、射撃の腕が良かった。 アズは父の記憶を振り返った。 雪也が貫太郎に毎日つき合わされた射撃練習場。 30m程離れた的に貫太郎が向けていたピストルが、今シオンのポケットにあるそれ。 「そうだロマァさん、アズに洋服を買ってあげたい」 風呂場に向かいながらシオンが言った。 なるほど。アズが身につけているものは、ジャガイモ掘りの日からずっと変わらない紺色のツナギである。 「構わないよ。これは君達のお金だから。ダッホイの街を散策しながら、アズとシオンちゃんの服を探そう」 風呂場から戻ったシオンは1枚の雑巾をアズに渡し、もう1枚の雑巾でロマァが溢した玄関の水を拭いた。 「ロマァさん。服を探すのは嬉しいんだけど、本当に探さなきゃならないのはヒゲだからね」 アズはしゃがんで、床に飛び散ったミルクを拭いた。  
/300ページ

最初のコメントを投稿しよう!

97人が本棚に入れています
本棚に追加