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屋根の上の緑色の髪、クロッカスが跳び移ったのは、アズとシオンのアパートへ続く屋根。
「何だよ!」
「軍の装甲車だ!」
広場の群衆の声が聞こえる。
市の開かれている中央広場に、茶色い迷彩塗装の6輪車3台が侵入したらしい。
屋根から落ちずにいた軍人の1人が、無線機で装甲車に状況を説明している。
クロッカスが逃げた南方面の道路は皆狭い。
装甲車の軍人達は、屋根上の逃走者を追う為に装甲車の重い鉄のドアを開けた。
(まずいな‥いったい何があったのさ)
アズは慌てて逃げる広場の群衆に紛れて、南の細い道路の1つに入った。
《クロッカスだったね、聞こえるかい? そちら側は運河だ。行き止まりだよ!》
キラン第2の都市ダッホイは中央に運河が流ていて、船着場を中心として栄えた街である。
川は高い擁壁(ようへき)の向こう。仮に擁壁に登ったとしても、水位の低い季節だから、はるか下の方に丸い石だらけの河原が見えるだけだ。
ラムダナイフを耳にかざしたアズは、近付いてくる足音を数えた。
「20人? やれるのか?」
アズが後ろを向き、ラムダナイフを両手で構えて腰を沈めた時である。
《あなた、お節介は止めて‥》
3階建ての屋根から、緑色の髪が跳んだ。
《ば、馬鹿! 高過ぎだ》
アズは思考波へ思考波を返した。
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