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クロッカスは高い場所から跳んだ。
アズはその着地を助ける為に、駆け寄る軍人達の方へ向けていたラムダナイフの向きを変えた。
《要らないお世話‥‥》
クロッカスは屋根を蹴ると同時に、首から灰色のネックレスをちぎり取って、その灰色を右手で下に向け、そう、斥力を使った。
キ───ン
アズの後頭部で、何かが弾けた。
女の子の落下は2階部分で止まり、そのままゆっくりと地面まで降りてくるかに思えたが、斥力は直ぐに重力に負けた。
《えっ! 何? えっ‥‥》
「まったく!」
アズは落下の真下に入ると、ラムダナイフの斥力で クロッカスを受け止めた。
右の肩でフワリと受け止めた。
「おい。クロッカス、どうした?」
気を失っている。
───コトッ―
クロッカスの右手から灰色のネックレスが石畳に落ちて、アズは女の子を肩に担いだまま屈んでそれを拾った。
(ラムダじゃないか!)
駆け寄る無数の足音は、耳でも感じられる距離に迫っている。
(マズイな‥‥どうする?)
アズは急いで辺りを見渡したが、骨董屋、カフェ、人の目から逃れられる場所が無い。
裏路地──
アズは骨董屋とカフェの間にある細い道へ駆け込む。
地下の共同溝へ降りる為の、重いマンホールの蓋を踏んだ。
(これだ)
アズはラムダの斥力で鋳物の蓋を浮き上がらせ、クロッカスを抱いてマンホールの丸へ飛び込んだ。
下への斥力を働かせつつ暗い地下世界に足を着き、光が差し込んでいる入り口を見上げると、そこへゆっくりと、音をさせずに蓋を返した。
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