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「ところでロマァさんは?」
アズとシオンのアパートは、マンホールの場所からさほど離れていない。
「イベントの参加者は2人でしょう? 失格は困るから帰ってもらった」
骨董屋とカフェのある通りには飲み屋が多い。
顔を赤くさせ、陽気に大声で話す大人達が多い。
「服、買ってくれた?」
ダッホイは寒い街である。大人達は酒で体を暖めている。
「買ったわよ。アパートに置いてきた。黒のツナギに黒いダウンジャケット」
「はい?」
ツナギは作業服だから普段着ではない。
「ねぇシオン。時々僕は君って人が分からなくなる時がある」
「私もアズが分からなくなる時があるわ」
煉瓦造りのアパートに着いた。
アズとシオンが借りた部屋は2階で、そこだけが鉄を使った外部階段を登る。
「大分ご機嫌だね」
アズは顎でご機嫌を指した。
シオンがアズの顎が示す方を見ると、なるほどご機嫌さんが階段に腰を降ろしている。
短い口ひげを酒で濡らした見た目40前のよれよれのベージュのコートの長身が、気持ち良さそうに鼻歌を歌っている。
その場所を登らねば2階へは行けない。
シオンが困った顔をすると、陽気な口ひげは歌を止めた。
「遅いなぁお隣さん。ヒック。早いとこ引っ越し祝いのパーティーを始めるよ。ヒック」
誰なの? ヒック。
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