ヒゲ中将とラスカ・ラスカ

17/21

97人が本棚に入れています
本棚に追加
/300ページ
  「さあ、入りたまえ」 ベージュのコートはアパートのドアを開けると、アズとシオンを部屋へ入れた。 石貼りの床の2DKである。 男が言った通り、リビングの四角いテーブルには、肉料理や魚料理がわんさかと皿に盛られている。 「上着を掛けよう」 男は2人からダウンジャケットを受け取り、次室の洋服かけにそれを丁寧にぶら下げた。 「中央銀行に務めているトマス・カーカーと言う。院を出てからひたすら働いてきてね、初めての長期休暇が取れたからダッホイに来た」 「ヤナギ・アズです」 トマスはそれに頷き、アズの前にあるグラスへ透明な炭酸水を注いだ。 「タニグチ・シオンです。17才です」 トマスはそれにも頷き、同じように炭酸水をついだ。 「日本の子とは珍しい。いや懐かしいなぁ、院の卒業旅行で行ったんだよ東京。もう15年以上も前の話だけどね」 初対面だというのに話を途切れさせない。 トマスはカウンターから透明な蒸留酒の瓶を手に取り、自分の椅子に座った。 キランの人々が好むその透明な酒を小さなグラスに注ぎ、一気に口の中へ押し込んだ。 「楽しい夜になりそうだ」 トマスは空いたグラスをテーブルに置き、とろとろと光る肉料理を小皿に取り分けた。 壁の時計の針は、夜の9時を指している。  
/300ページ

最初のコメントを投稿しよう!

97人が本棚に入れています
本棚に追加