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「ふざけんな!」
1人となったあぶれ者は、男に勝てないと踏み、少女に向かって走り出す。
「きゃっ!」
殺されるのではと、少女が怯え、頭を守る。
「もぎゅぅ!」
いきなり土鬼が地面から飛び出て、残り1人のあぶれ者の腹部を直撃、相当な衝撃で、胃液が飛び、それと同時にあぶれ者も飛んでいった。
「また勝手に出てきやがって!
土鬼、いつも勝手に手柄を取るな!」
怒っているように見えるが、半分飽きれ、
「もぅぎゅぅ」
土鬼に至っては、反省すらしておらず、あぶれ者が気を失っているのを確かめていた。
その土鬼の奇妙な形に少女の目は奪われた。
30㎝位の大きさで、今で言えばアザラシの様な形、手は、モグラの手をしていて、つぶらな瞳に、猫みたいな口を見て、
「可愛い!」
先程の恐怖は何処へやら、目を輝かして、土鬼においで、おいでと手招きしていた。
「えっ……可愛いのか?」
男は、土鬼を見つめていた時だ。
「かよ! かよ! 何処だ!」
女性の声が森中に響き渡り、少女は、
「かよはここです、麟様!」
すぐに誰かなのか理解し、ここだと叫ぶ。
かよの姿を見て、男は、
『かよ……? いや違う、どうして同じ名前の奴は、俺の知っている“かよ”に似ているんだろう』
知っている面影を重ねてしまい、切なくなった。
男はすぐに去ろうと動き出すと、
「動くな」
また先程の女性の声がした。
今度は近くからだ。
辺りを見渡すと、かよの上から、ゆっくりと巫女の姿をした女性が現れ、
「麟様!」
「かよ、心配させるな、薬草くらい、近場の神に交渉出来るんだぞ?」
かよを優しく語りかけていた。
『あれが、黒き麒麟、麟なのか……でも、もう興味は無くなった』
男は、詰まらなそうにもう一度行こうとした。
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