第1話 黒き麒麟

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  黒き麒麟、麟に対して、不思議なヒトだと口々に言っていた。 それに対しても、麟は凛々しくも軽く微笑んでいた。 確かに最初の印象は、神らしく人試し、気に入れば、とんな奴でも愛情を示し、そして争いを好まん性格と感じた。 鳥居を越えた辺りで、 「そういえば、お主はなんと名だ?」 麟が男に名を聞いた。 「名乗るなは無い」 素っ気なく答える男だったが、 「名無し、では無さそうだが? 勝手に面白おかしい名をつけても良いが?」 ニヤニヤと笑って、明らかに笑いが常に起きる名を考えていると分かり、男は結局折れ、 「ハァ……総十だ。変な名で呼ぶなよ」 名を総十と言った。 「総十、なかなか面白い名だ」 結果的には笑われ、総十は心の隅で恥をかいた気分だ。 「総十様、とても素敵ななですね」 かよはそう言うが、 「お世辞はいい!」 総十にとっては、お世辞にしか、聞こえなかったが、かよは、総十の手を握り、 「いえ、本当に素敵ですよ、総十様」 笑顔で言った。 さすがに総十も照れるが、笑って返してやった。 そうして、何故か出て行こうにも、土鬼がかよから離れたがらず、かよも土鬼を気に入り、半分諦めた形で、いつの間にか住み着く形へとなり、金欠になりやすい村に金銭を運ぶため、頭狩りは相変わらずだったが、基本的にはここの近くで戦する連中が、ここまで近付かせない為にやっていた。 一部は理解しなくてもいいし、金がなければどうやって必需品を買うのか見物と思っていたが、麟は常にそこまでは要らない、お前の稼ぎと言い、どうして責めないのか聞けば、 「愚問過ぎるな、神は人の争いなぞ、手を出さない」 コレだった。 戦神だっているだろうと言えば、居ても、手は出さないのが普通と言っていた。 もし、手を出すとしたらどんな奴だと聞いたら、笑いはするが、 「大切なものを傷付けた者に対して、罪を与える」 寂しげな声で語っていた。 それが、昨日の帰り道の事だ。  
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