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ジルから同意を求められたハーミルは、ちょっとばかし得意げな顔をしてみせる。
「移住先としてこんないい場所はねーだろ?」とでも言わんばかりのドヤ顔である。
「まあ、移住すんのはべつに構わないさ。そっちの方が多分安全だとオヤジが踏んだんだろ?」
「少なくとも、おめーらにとっちゃこのカリフォルニアよりは安全だろうな。それだけは間違いないな」と受け合った。
バーディとしては特に問題はなかった。家族一緒に行けるなら、もうこのカリフォルニアには特段の思い入れもないのであった。
しかし、次の瞬間、バーディ達にとってはだが、衝撃的な一言がハーミルから発せられた。
「もう、トミーもアシュリーも向こうに行ってるしな」
「他にもイロイロ聞きたいことはあるが・・・。ちょっと待ってください。義父さん、なんだって?」
「オヤジ、もうアシュリーとトミーは、ジルさんの故郷へ行ってるのか?」
「ああ。そうさ。いつ、アバスの若い衆が、登校中のトミーとアシュリーをさらおうとするかなんざ分かりゃしねえしな。向こうで無事にしてる。・・・ってなんだよ、その反応は」
「GPSは反応していなかった」
ミスティは冷静に反応した。
「私達アバドンホールの空気は、人間たちの電波とかを遮断しちゃうんだ。だからアシュリーちゃん達を逃がした場所を全く移動していないことになっていると思うよ」
バーディとミスティは揃ってため息をついてしまうのだった。
「おまえら、どうした? その反応は。俺、なんかまずいことしちまった?」
さすがは父親といったところか。息子夫婦の放つ空気を察するのは早い。だけど、そういうことなら、一言相談していただけるとありがたかった。
「お義父さん、脇が甘いのは相変わらずですね・・・」
「クソオヤジ、脇が臭いのも相変わらず!」
「ワキは臭くねえぞ。というか、なんだよ、二人して」
「私達はずっと監視されてたんです。アシュリーとトミーも。そのアシュリーとトミーが突然失踪したら、こちらに来るのは必然じゃありませんか?」
「俺達は常に監視されてたからな。あいつらが登校中に連れてったのだとすれば、・・・ふせろ!!」
バーディは面接に使用していたテーブルを瞬時にひっくり返して、その裏側にミスティと共に隠れた。バーディはその腕にジルを抱き抱えて。
机に、飛散した扉やガラスが突き刺さってる音が聞こえて来る。
轟音に伴って、悲鳴にも似たジルの声が響き渡る。
「な、な、何事?」
「アバスファミリーの連中がやってきて、オーシャンビューが見えるガラス張りのファサードごと吹っ飛ばしたって感じ?」
「冷静な解説どーも!!」
さすがのジルもキレ気味だ。
「オヤジ、ジルさんを頼む!」
「まぁ、なんも出来ねーけどな?」と悪びれる風でもなく呟くも、ジルの側に寄るハーミル。
バーディはジルを手放して、妻に声をかける。久々に本領発揮の合図というわけだ。
「ハニー?」
「ああ」
「一緒に、無作法極まりないお客さんにお帰りいただこうぜ?」
ミスティは返事をする代わりに、エプロンの下からサブマシンガンと、マチェーテを取り出してバーディへよこす。
爆破による残響の余韻も残るままに、飛散した扉からぞろぞろと連中が侵入してくる音が響く。
そして、侵入者が俺達に語りかけてきた。
「よう、バニングスのクソガキども! 下のおちびちゃん達はどこへやった? 脱出の計画でも算段ってか?」
机に隠れたまま、俺は叫び返す。
「いやいや、こちとら脱出しようにも金がなくってね。ギャンブルで負けすぎちまって」
「方便なんぞいらねえ。どうやったか知らんが、うまくやったもんだ。おかげさまでこちとら、お前ら二人だけでも捕まえねえと俺たちはボスに八つ裂きにされて、自分のケツに自分の手突っ込まれることになる」
「そういう18禁なこと言うなよな!」
アバスファミリーはすぐ下品な話をするものだ。育ちの程度がしれようってものである。
「御託はその辺で終わりにしようや。今、投降さえしてくれりゃ、少なくとも可愛い嫁さんの命は助けてやるぜ。うちのボスは若くて気の強い女が好きだから・・・」
その言葉は最後まで続けられることはなかった。ミスティが、エプロンに仕込んだバタフライナイフをノールックで投げつけたからだ。
ドスっと、いい音が響いた。この様子だと脳天に突き刺さったに違いない。
つづいて、どさりと男が床に倒れ込む音が響く。
「あ、アルマンドさん!!」
部下達の動揺した声が聞こえる。
「今だ、ダーリン。思いっきり、机を奴らの方へ投げつけろ!」
「結構重いのよ、コレ」
「いいから、さっさとやれ!」
だって、人が三人隠れられる、大きな木製のテーブルだ。しかし、バーディにとっては出来ないことではなかった。
バーディはなるべくテーブルから、ミスティがはみ出ないように気をつけながら、テーブルをアンダースロー気味に、入り口にいる連中の方を目掛け、思いっきり投げつけた。
放物線を描くテーブルと一緒にハニーも飛び上がる。それを目掛けて連中も慌てて銃撃するも、テーブルによって防がれている。
「人間ってあんなに跳躍できるの・・・?」
ジルが、その跳躍を見て唖然とする。
「人間もなかなか侮れないだろ?」とバーディがニヒルな笑みで返答すると、
「こいつらが人間離れしてるだけだよ」と父親がいらんことを言う。
「クソオヤジ。俺もちょっとばかりお手伝いに行ってくるわ」
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