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その日の夕方、赤坂見附の事務室に戻ると、見知らぬ男が居た
制帽を斜めにだらしなく被り、若草色のネクタイもこれまただらしなく緩められている
「何だ、貴様は」
「丸ノ内線だ。よろしくな!銀座!」
丸ノ内線、と名乗った男は…初対面にして地雷を踏んだ
これ以上ないくらいの勢いで
一緒に居た若い職員の動きが凍りつく
「……銀座と呼ぶな」
「人違い、か?」
古参の職員に教えてもらった筈なのだが、目の前の男は違うと言う
「んじゃ…誰だ?」
「人違いじゃない。俺は銀座だ」
「合ってんじゃん」
丸ノ内は首をかしげる
銀座は苛ついたように眉をひそめる
「…誰も銀座であることを否定なんかしていない」
「うっわ屁理屈!」
へらへらと笑う丸ノ内
銀座の眉間のシワは深くなるばかりだ
「何なんだ、貴様は」
気にくわない――口調からひしひしと伝わってくる
「俺?丸ノ内だぜ?」
そんなことはお構い無しに丸ノ内はふにゃっと笑う
銀座は拳を握り締める
「俺は認めないからな」
「何をだ?」
「貴様をだ!」
踵を返してすたすたと歩き去る
そのピンと伸びた背中を丸ノ内は首をかしげて見送る
「ありゃ…俺何かしたかな?」
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