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塀の高さがそこまで高くないのは、国境線以外にことを必要としていなかったから。
使われなくなった苔や雑草が生えまくりのこの塀を見て、俺はさらに焦った。
今回の"軍事演習"の地図を見た限り、範囲はこの塀までだ。
つまりこの塀より先は、何があるか分からない危険区域。
今は死してあるだけの物と化した塀の、その外側を恐る恐る覗く。
いやいやまさか、と自分で突っ込んで見るが、再度考えて見ると……嫌な汗が止まらない。
やりかねない。
あの人ならこの塀をよじ登って、歩き回っていたっておかしくない。
そもそも、進んで危険へ飛び込むような二癖どころか何万癖もある彼女が、この塀の向こう側へ興味を示さない訳が無い。
俺は一息呼吸を整えると、決死の覚悟で塀から下がれるだけ下がった。背に木を抱いて、俺はもう一度先を見る。
行くしか、ない。
そう決めて、足を踏み出した瞬間だった。
「お前は馬鹿か。いくら私とて、そんなわけも分からぬ場所へ、わざわざ塀を登ってまで行くわけがなかろう」
後ろから、つい数日前に出会った少女の声。
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