22人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は、言った後で激しく後悔した。仮にも一国の姫に厳しすぎただろうか。彼女は意外にも、首を深く項垂れていた。
その様子を見て、さらに焦る俺。思わず駆け寄って深く頭を下げる。
「す、すいません、姫。あの……」
言い過ぎました、と言うつもりで、途中で異変に気付く。
彼女は肩を震わせていた。それも、尋常ではないぐらいに。
ただし、泣いているのではなく……笑っていたのだ。
彼女は首をパッと上げ、俺の顔を見てまた頭を抱えて笑う。どうやら、ツボってしまわれたらしい。
くそ、と俺こそ頭を抱えたくなった。
まるで魔女だ、と初めて会った時と同じ印象を懲りず繰り返す。
今だ笑いながら、彼女は誘うような、いや馬鹿にしたような青く澄んだ瞳を俺へと向けた。
「ダニエル。お前は本当に飽きない奴だよ。流石は私の生活係。素直で正直な奴ほど扱いやすいものはないからな」
俺は深い溜息をつく。本音が漏れてますよ、と言おうにもそんな気力も体力も残ってはいなかった。そうして、さっきの彼女同様、大きく首を項垂れる。
その様子を見て、また彼女ーーアネット=メルシアは笑うのだった。
◆◇
最初のコメントを投稿しよう!