―第弐章―

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――九月とはいえ、秋の雨は冷たい。 夜に音もなく降る雨は尚更だ。 園村 亮(そのむら あきら)は墨で塗り潰したような夜空を見上げて舌打ちした。 黒い七分袖のシャツにジーパン。黒髪を無造作なウルフヘアにした精悍な顔立ちの青年だ。 長身で細身だが引き締まった体つきをしている。 「ったく……何で俺がこんなことに付き合わにゃならないんだ?」 「……しょうがないやお? 一人より二人の方が信憑性も増すってもんだ」 亮は隣で軽口を叩く青年を横目で睨んだ。 ソフトモヒカンに白のジャージ。襟元からは金のチェーンが覗いている。身長は亮より若干低い。 愛嬌のある猿顔が特徴の男だ。 背にはリュックサックを背負っていた。 「あのな……安心院、俺とお前が行っても信憑性ないだろ? 大体、お前はいつも……」 「ぐちぐちゆうなよ……しゃんしゃん行ってしゃんしゃん終わらせようぜ」 安心院 一(あじむ はじめ)はニヤリと笑うと亮の肩を叩いた。 亮は小さく溜め息をつくと、目の前に黒々と建つ建物を見上げる。 蒼天学園の実習棟。 どこか近世ヨーロッパの建物を思わせる外観は、夜に見るとなかなか不気味だ。 「終わったら明日、『にいはお』のラーメン定食おごれ」 亮はそう言うと、水溜まりを避けるように実習棟に近付いていった。
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