―第壱章―

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――蒼天中央駅、北口。 駅構内を行き来する雑踏に辟易しながらタクシー乗り場に着いた青年は、眉間に手を当ててため息をついた。 「お待ちしておりました。そして、お帰りなさいませ。ご主人様」 そこには、黒の高級セダンと古めかしいメイド服に身を包んだ少女が待ち構えていた。 黒のワンピースと純白のフリルつきエプロンドレスが、彼女の凛とした美しさを引き立てているが、都会の空気の中ではやはり違和感があった。 「さくら……その姿での出迎えは目立ち過ぎるからやめてくれと頼んだ筈だが?」 青年は、さくらと呼ばれたメイド少女に旅行鞄を手渡す。 「駄目ですよ。貴方様は大陰陽師『安倍晴明』に連なる御血筋……『正装』でお出迎えしなければ、叱られてしまいます」 さくらの答えに、青年は苦笑して頭を振った。 「――まあ、いい。案内を頼むよ。さくら」 「はい! ご主人様」 メイド少女はそう言うと、青年に満面の笑みを向けた――。 無機質な街並みを車窓から眺め、青年は秋桜の押し花を手に取る。 「蒼天市に入った早々、同業者に喧嘩を吹っ掛けられたよ……」 青年は運転席のメイドに苦笑混じりに言った。 少女はバックミラー越しに青年を一瞥する。
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