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ガタンゴトン……ガタンゴトン……
「――ん……うぅ……」
――電車の規則的な走行音に、《青年》はふと目を覚ました。
車窓の景色は紅葉深い山間から、いつの間にか計画的に整備された都市のものに変わっている。
……青年は流れゆく景色に目を細め、小さく欠伸をした。
僅かに開いた窓から吹き込む、秋の風に揺れる繊細な髪。切れ長で涼しげな瞳、陶磁器のように白い肌――
女性と見紛うばかりの《美貌の青年》である。
彼は旅行鞄から大判の茶封筒を取り出すと、中に入っている秋桜(コスモス)の模様が美しい便箋と、
『私立蒼天(そうてん)学園高等部』
のパンフレットを眺めた。
便箋には、習字の手本をそのまま移したような丁寧な毛筆で文 (ふみ) が記されていた。
――青年が史上最年少で【第一級陰陽師資格】を取得 したこと。
稀有な才能を持つ陰陽師に認められる 『安倍晴明』 という名を襲名したことに対する祝辞。
転校先への手続きが完了したこと。
彼が転居先で住む事になる屋敷の『管理人』とは話ができている旨の報告――。
……簡潔だが気遣いの感じられる文。
その手紙の最後に一首の歌が記されていた。
――『 別れをば 山の桜にまかせてむ 留めぬ留めじは 花のまにまに 』
[別れは惜しい。しかし、私は君を引き留める事ができない……だから、君が行ってしまうか、留まってくれるか は……山の桜が散るかどうかに任せよう――。]
そんな趣旨の歌である。
「兄上も洒落たことを……」
青年は同封された秋桜の押し花を手に苦笑した。
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