麻賀津村断章3

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 聞き覚えのある名を聞いて笠原笠原茂樹(かさはらしげき)は、はたと食事の手を止めた。急いでTVを凝視すると、もう二度と見る事はないと思っていた故郷がTVに映し出されていた。しかしそれはすぐに別の映像に変わった。 「今日の午前8時40ごろ、N県O市の麻賀津原と呼ばれる場所で、宮司の春木勇さん(68)が遺体で発見されました。警察は殺人事件と見て捜査をしています」  あの後スマートフォンをインターネットに接続して、春木勇についてのニュースを検索したが、先ほどTVでアナウンサーが伝えた以上の情報は流れていないようだった。 「あの、誰よりも口やかましく口伝を守れと騒いでいたジジイが麻賀津原に入っただと」  笠原は不審に思った。死んだ麻賀津神社の宮司の息子の勇一か勇二に電話して話を聞いて見たいという衝動に一瞬かられたが、止めた。 「あいつらも直樹(なおき)の奴に感化されて俺に悪感情を持っているかもしれないからな。関わりあいになるのは避けた方が無難だろう」  そう判断すると笠原は食事を終えたテーブルを後にして午後の仕事に取りかかった。
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