1730人が本棚に入れています
本棚に追加
温泉はあったかいし、月は綺麗だし、抱きしめる距離にハルがいる。
冬の夜空を見上げながら、はあと息を吐いた。同じ様にハルも息を吐けば、二人の白い息が重なり合って、真っ黒な夜空に吸い込まれていく。
「俺は多分今、すげぇ幸せだ……」
しみじみと呟いた俺に、じゃあ乾杯しようかと微笑むハル。
振り返れば既に冷酒とグラスが用意されている。いつもながらこの準備の良さ。ほんとにこいつはいい嫁になるなと笑いが漏れる。
乾杯しようとした時、ふと視界に何かが映った。
「あ……ハル、あれ」
ハルも振り返り、あっと驚きの声を上げる。
輝く蒼と黒模様の大きな蝶がニ匹、ひらりひらりと夜空に舞い上がっていく。
「今、夜中だよなあ……」
ぽつりと呟く俺に、そうだよねと頷くハル。
まるで恋人同士のように重なり合い、離れ、再び寄り添い、ニ匹の蝶は踊るように月と雪の間を舞い、深い夜空へと消えて行った。
「夢かな、今の」
空を見上げたまま呟いた俺の隣で、ハルはグラスに酒を注ぎながら、冬の幻かもなんて言ってる。
「綺麗だった……けどそうか、幻か」
何となく妙に納得しながら、あの蝶の行方を想像した。
「大丈夫、省吾と俺の今は、夢じゃないよ」
振り返るとニコニコ笑顔のハルがいて、思わず笑ってしまった。
グラスを受け取り、乾杯する。
最初のコメントを投稿しよう!