チャージ(社会人四年目:十二月)

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 時刻は午前0時を過ぎている。  ハルはまだ帰って来ない。  新しいプロジェクトに取り組んでいるとかで、ここんとこずっと深夜帰宅だ。  風呂から上がり、缶ビールを飲みながらテレビを見ていると、ガチャリと玄関の扉が開く音が聞こえてきた。リビングの扉が開き、帰宅した恋人が姿を現す。 「ただいま」 「お帰り」  あ、顔死んでる。疲れてんなあ。 「飯は」 「適当に食べた。シャワー浴びてくる」 「俺もう寝るけど」 「うん、お休み」  少し笑顔を見せてから部屋を出ていくハルの後ろ姿を見送り、週末は俺が何か飯作ってやるかなあと考えながら寝室へと移動した。  ベッドに入り、眠りとの境目をうつらうつらとしていると、カチャリと扉が開く音が聞こえ、ベッドがギシリときしむ。  半分眠りに入りながらも、風呂上りのハルのにおいが鼻をくすぐる。  ふと左手に温かさが伝わり、目を閉じたままそれをやんわりと握ってみた。  ああ、ハルの手だ。 「省吾……起きてる?」  寝てます。眠いし……。 「……おやすみ、省吾」 「……やすみ」 「やっぱり起きてる」  しまった。  それでも頑なに目を閉じていると、両腕で身体を引き寄せられた。 「ごめん、少しだけぎゅうとしたい」  言ってるそばからぎゅうと抱きしめられて、頭の上から小さなため息が聞こえた。ひとの頭の上でため息か。 「あー、癒される……」  俺は抱き枕かと思いながら、目を閉じたまま呻いてみるけれど、ピクリとも動じる気配はない。相変わらず我が道を行く恋人だ。もうそれにも慣れてずいぶん経つ。 「省吾、一回だけ……キスしてもいい?」
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