1730人が本棚に入れています
本棚に追加
寒い。寒すぎる。
辺り一面雪景色。
ハルの運転で雪の壁に挟まれた雪道を延々と走り続け、夕食前の夕暮れ時に、山形奥地の温泉街に到着した。
ハルは車を降りるなり、長旅の疲れはどこへやら、雪景色にはしゃいでいるけれど、俺のテンションは今のこの気温と同じ位に低い。
寒いのは嫌いだって言ってんのに、こんな寒い時期に敢えての山奥銀世界まで来る羽目になるとは。
温泉なら近場にもあるじゃねーかとぶつくさ呟いていると、早く行こうと手をひかれた。
「おま、手とか繋ぐなよ」
恥ずかしさから声を上げると、知らない土地だし良いじゃないかと笑顔で返された。
駄目だ、完全に浮かれている。今のハルは春の蝶々並みに軽やかだ。
やれやれとため息をつき、ハルの後に続いて俺も雪を踏み締め歩き出した。
◇◇◇
そもそもの始まりは、客先の忘年会で熱海温泉に一泊する事になったと告げた夜の出来事だ。
「温泉一泊!? 何だよソレ、省吾が行かなきゃいけないのか」
「秋に新担当になったばっかりだし、顔売っとけって所長がさ」
うちの職場じゃよくある事で、今までだって一泊旅行の忘年会なんて何度も行ってる。
大抵出発は平日の仕事後で、次の日は直行で職場に戻っていたから、離れて暮らしていたハルに話す機会がなかっただけだ。
「反対反対! 何でそんな不特定多数の男達と裸の付き合いしなきゃならないんだ! 省吾の裸見せるなんて反対!」
なんだそのブーイングは。
最初のコメントを投稿しよう!