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ユーリ・ミナ・ハディスは、床に目を落とす。
ここは石材なのに、数歩向こうはコンクリートだ。街を無差別に飲み込み、無理やり接合したからだろう。
床だけではない。壁も天井も、色や素材に統一感がなかった。
ツギハギの円形の部屋の中心には、まるで取り残されたように、黒いグランドピアノが置かれている。
それを弾きながら、
「来たか」
ゾリス・ゲノ・ハディスが──否、タナトスが呟いた。
寄せ集めの素材でできたフロアの真ん中。黒い外套に身を包む青年が、聞いたこともない曲を気ままに奏でる、奇妙な光景。
しかし、優美な音色と、タナトスが持つ幻想的な雰囲気が、違和感を中和していた。
兄がピアノを弾くところを、ユーリは見たことがない。この演奏は、タナトス自身の知識と技術だろう。
そう推測しながら歩を進める。足音は壁に吸い込まれ、あまり反響しなかった。
「……」
ここは、塔の頂上。
円形のフロアは、壁に沿って設置された複数のランタンに照らされているにもかかわらず、ひどく暗く感じられる。
空を閉ざす枝葉に近いせいか、タナトスの威圧感のせいか。恐らく両方だろう。
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