1章

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(ついに始まった、ということか……) タナトスのことを考えながら、教室を見回す。 笹原 慎士は自分の席につき、一心不乱にパソコンのキーを叩いている。 画面に多数表示されているのは、電話番号。外部──市外と連絡をとろうとしているようだ。 クラスメートたちの騒ぎが聞こえていないかのような、凄まじい気迫である。顔を見る限り、成果は芳しくないようだが。 宍戸 竜巳も似たような様子だ。何度もどこかへ電話しているが、一向に口が動かない。 (あの塔が、電波妨害でもしているのか……?) 推測しつつ、改めて隣に目をやる。 「……」 桜田 千夏が、椅子に座って体を折り曲げていた。祈るように組み合わされた両手は、小刻みに震えている。 黙っていられなくなり、細い肩に手を置いて呟く。 「……大丈夫だ」 大丈夫か、などと間抜けな質問はしない。しかし、根拠のない慰めもどうなのだろう。 言ってしまってから思ったが、 「……うん。ありがと」 桜田は顔を上げ、ぎこちなく微笑んだ。 こちらの気持ちを、全て分かった上での感謝だろう。こんな時でも彼女は優しかった。
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