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(ついに始まった、ということか……)
タナトスのことを考えながら、教室を見回す。
笹原 慎士は自分の席につき、一心不乱にパソコンのキーを叩いている。
画面に多数表示されているのは、電話番号。外部──市外と連絡をとろうとしているようだ。
クラスメートたちの騒ぎが聞こえていないかのような、凄まじい気迫である。顔を見る限り、成果は芳しくないようだが。
宍戸 竜巳も似たような様子だ。何度もどこかへ電話しているが、一向に口が動かない。
(あの塔が、電波妨害でもしているのか……?)
推測しつつ、改めて隣に目をやる。
「……」
桜田 千夏が、椅子に座って体を折り曲げていた。祈るように組み合わされた両手は、小刻みに震えている。
黙っていられなくなり、細い肩に手を置いて呟く。
「……大丈夫だ」
大丈夫か、などと間抜けな質問はしない。しかし、根拠のない慰めもどうなのだろう。
言ってしまってから思ったが、
「……うん。ありがと」
桜田は顔を上げ、ぎこちなく微笑んだ。
こちらの気持ちを、全て分かった上での感謝だろう。こんな時でも彼女は優しかった。
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