51549人が本棚に入れています
本棚に追加
決まりが悪くて目を逸らすと、ショートカットの少女も力なくうつむく。
多少緩んだとはいえ、手の震えは収まらない。
「……」
彼女の両親が、法事で県外へ行ったことは、一緒に寮を出た時に聞いた。大学生の姉も大丈夫だろう。
桜田が震えるほど心配しているのは、公立中学校に通っているという、妹だ。
学校そのものは、中心街から一歩離れた場所にあるものの、危険じゃないとは言い切れない。
ましてや、街は真っ暗なのだ。謎の塔自らが光を放っているとはいえ、ほとんど夜と変わるまい。
「……」
窓を見る。中よりも外の方が暗いため、妖しい輝きを放つ塔しか視認できない。
街の様子は分からないが、木宮の胸には、とてつもなく嫌な予感が充満していた。
あの塔や森を生んだ魔術は、桜峰市を変貌させて市民を閉じ込める、それだけが目的なのだろうか。
(もちろん、ノーだ)
心中で即答する。
あれほど強大な反応の後にそれでは、アンバランスも甚だしい。さらに別の意味もあるはずだ。
ちらちらと桜田の顔色を窺いつつ、様々な可能性を考える。
最初のコメントを投稿しよう!