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すかさず、慎士が厳しい眼差しで噛みついた。
「弱気なこと言ってんじゃねぇよ。出たくねぇのか」
「そういうわけじゃないさ。宍戸家の嫡男として、社会に恩を売っておきたい気持ちはある」
あんまりな言い方だが、街の現状について、彼なりに思うところはあるらしい。
「しかし、現実問題として学園から出られないんだ。どうしようもない」
「理事長に直談判すりゃいいじゃねぇか。あの人だって、じきに救護活動をしなきゃならねぇことくらい分かって……」
「第二の神崎を生む危険を、あの聡明な人が冒すと思うのかい」
突き放すような一言に、場の空気が凍る。
彼らだけではない。クラスメートたちも、口にすることを避けていた人名に、敏感に反応している。
やはり全員、鋼介が誘拐されたという"表向き"の真相を、信じていなかったようだ。
「勝手を言うのは、確かに子供の特権かもしれないが……」
注目するクラスメートや教員を一瞥してから、素っ気なくも力のある声を突き刺す。
「大人の気持ちも、少しは考えたまえ」
言うだけ言った宍戸は、緩やかに背を向けて席に帰ってしまった。
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