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「……けっ」
椅子に座ったまま、苦々しげに唇を噛む慎士を見下ろす。
(……そうだな)
木宮は心中で頷き、桜田の元へ戻った。相変わらず、祈るように両手の指を絡めている。
彼は、桜田を一人で行かせたくない。彼女を守るために街に出たいと思った。
その願望の根幹は、再び生徒を失うことを恐れ、校外への移動を禁じた理事長と、何も変わらない。
誰かを守りたいと思うが故の、行動なのだ。
それを無視して自分の気持ちばかりで動くのは、確かに横暴と言っていいのかもしれない。
「あー……じゃあ、みんな。出歩いてもいいけど、なるべく静かにね」
木宮が適当な椅子に座るのを見計らったように、薬草学の教員が口火を切る。
騒ぎ(というほど大きくないが)が止んだことに安心したのか、表情は柔らかかった。
「……」
理事長が指示を出すのはいつだろう。この息の詰まる空間を後にするのはいつだろう。
自分の大切な女の子が、不安から解放されるのは、一体いつになるのだろう。
身を縮める桜田に、手を差し出してやることもできず、木宮はじっと考えていた。
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