1章

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──── ノックもなしに開かれた扉の向こうから、 「理事長」 いつになく真剣な声で呼びかけつつ、右京 太助が大股で歩み寄ってきた。 デスクを中心に展開する、大量の魔法陣を操作しながら、理事長もまた、凛々しく鋭く声を返す。 「システムはオールグリーンだ。さすが、濃い緑に囲まれているだけのことはあるね」 「ずいぶん余裕ッスね。もうちょい焦ってると思ってましたけど」 「いや、これでも相当焦っているよ。冗談でも言ってなければ、やってられないくらいに」 嘘ではない。その証拠に胸の奥では、心臓が別の生き物のように飛び跳ねていた。 禁術を使う可能性を、考えていなかったわけではない。事実、少しなら下調べもしてある。 しかし、王族を二つも抱き込んだ上、この規模の禁術を二つ、矢継ぎ早に発動されたのは想定外だった。 眉を寄せ、背後を見やる。 ガラスの向こうには、普段なら桜峰の北隣・藤吉市の町並みが広がっているのだが、今は巨木に閉ざされてしまっている。 自分の未来をも封じられたようだ──そんなことを考えながら、改めて右京に向き直った。
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