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ノックもなしに開かれた扉の向こうから、
「理事長」
いつになく真剣な声で呼びかけつつ、右京 太助が大股で歩み寄ってきた。
デスクを中心に展開する、大量の魔法陣を操作しながら、理事長もまた、凛々しく鋭く声を返す。
「システムはオールグリーンだ。さすが、濃い緑に囲まれているだけのことはあるね」
「ずいぶん余裕ッスね。もうちょい焦ってると思ってましたけど」
「いや、これでも相当焦っているよ。冗談でも言ってなければ、やってられないくらいに」
嘘ではない。その証拠に胸の奥では、心臓が別の生き物のように飛び跳ねていた。
禁術を使う可能性を、考えていなかったわけではない。事実、少しなら下調べもしてある。
しかし、王族を二つも抱き込んだ上、この規模の禁術を二つ、矢継ぎ早に発動されたのは想定外だった。
眉を寄せ、背後を見やる。
ガラスの向こうには、普段なら桜峰の北隣・藤吉市の町並みが広がっているのだが、今は巨木に閉ざされてしまっている。
自分の未来をも封じられたようだ──そんなことを考えながら、改めて右京に向き直った。
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