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尋ねるのは、最も気になる人物の行方。
「時音は?」
「……どこにもいません。電話も通じなくなったんで、手の打ちようがないッスね」
「……そうか。ありがとう」
ありのままを答えてくれたことに感謝し、防衛プログラムを指で弄ぶ。
今のところ、学園や学生寮に異変はない。しかし、それも時間の問題だろうと、理事長は思った。
「これは、悪い方の予感が当たってしまったかな」
「……ホント、悪い方に転がってばかりッスねぇ、人生は」
「そう思うのは、悪いことの方が記憶や印象に残りやすいという、人の脳の特徴ゆえであって……うんちくはやめておこう」
口をつぐむ女性に、右京は苦い顔のまま。
「どうするつもりか知りませんけど、オレぁ行きますよ。時音がやられたんなら、ヤツと張り合えるのはオレかあんたしか……」
「やられてなんかいないさ。あの子は生きている」
力強い断言に、かつての教え子は目を丸くしたが、彼女は意に介さず、遠い目で続ける。
「生きて、どこかで戦っているよ」
無傷ではないかもしれないが、きっと大丈夫。
根拠なしに確信できるくらいには、彼女は時音を信頼しているのだ。
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