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基本的な体構造は、カラスのそれと相違ない。
ただ、筋肉が異様に膨れている。裂けた皮膚は癒えたようだが、流れた血は羽毛と絡まり、赤黒い塊になってしまっていた。
浮かび上がった喉の骨。ひどい臭気を放つ唾液。おぞましいパーツの一つ一つが、理事長の記憶を呼び覚ます。
「……魔流毒……」
「へ?」
「筋肉の膨張、骨格および関節の強度向上、知能の低下に過度な凶暴化……魔流毒による変異症状と酷似している」
「てことは、あの塔……」
「……魔流毒を多量に散布し、周辺生物を変異させる術式なのかもしれないね」
肯定すると、右京は床に目を落とした。その顔は悔しそうにも、苦しそうにも見える。
彼の気持ちが、理事長には痛いほど分かった。
ただのカラスをここまで変貌させるほど、濃度の高い魔流毒だ。中心街にいた者は、例外なく吸引したに違いない。
住人の九割九分九厘は変異を起こし、ただ獲物を求めて彷徨する化け物になったと思われる。
「……」
急に息苦しくなった気がして、理事長は胸に手を当てた。
脈打つ心臓の上で、確かに酸素を供給している肺。その一部に変異を患ったのは、彼女が十代半ばの頃だ。
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