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『覚悟はできてんだな?』
「……何の覚悟だ?」
真剣な言葉の裏に隠れた、フェルムの真意を窺う。
低く鋭い、本気の声色だ。雑談をするつもりでないことは明白だった。
『生きる覚悟だ』
「……」
『傷つける覚悟だなんだ、そういうのは聞き飽きた。今さら確認するまでもねぇ』
沈黙を守るオレに、フェルムはとうとうと語って聞かせる。
『オレが聞きてぇのは、そうやって傷つけて、殺して、奪って……そうまでして生きる覚悟が、今のお前にあるのかってことだ』
どちらかが生きるために、どちらかが死ぬ。生き残った方が絶対で、死んだ方には何一つとして与えられない。
タナトスが仕掛けようとしているのは、そういう生存闘争だ。
そんな、誇り高くも血生臭い戦いに臨んで、耐えられるのか。フェルムが警告──否、心配しているのはそこだろう。
「……」
言ってることは、正直ごもっともだと思う。
幸か不幸か、オレは知っているのだ。相手の全てを奪うことになるのが、どれほど苦しいか。
たとえ許すつもりのない敵が相手でも、その気持ちを抱かない保証はない。
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