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しかし、教室を後にする直前の彼女は、いつも通りの力強い表情を取り戻していた。
E組の面々に背を押されて、使命感のようなものを得られたのかもしれない。
「無駄な感慨に浸っているところ申し訳ないが、あまりゆっくりしている暇はないのではないかな、貧民」
露骨にけなされ、慎士は苛立ちを露に宍戸を睨んだ。
あちらは、我関せずとでも言わんばかりに空を見上げている。
「どういう意味だよ」
「あの二人が敷地外へ出たことで、少なくとも理事長には察知されたはずだ。結界の術式が、微妙に変質しつつある」
「理路整然と言ってる場合か!」
悠然と語る同級生に吠え、簡素な門の方角へ駆け出す。術式を脱出不能なものに書き換えられたらお手上げだ。
肩をすくめた宍戸も、少し後ろに続く。ちっとも焦っていない。
それどころか、井戸端会議に興じる主婦のような、超スローペースで言った。
「そういえば、君に一つ聞いておきたいことがある」
「このタイミングじゃなきゃダメか、それ!?」
振り向かず、走りながら叫ぶ。職員室まで響く危険はあったが、そこまで考える余裕がなかった。
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