1章

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「お前の言う通り、ユーリを連れ戻すなんて、お節介以外の何物でもねぇんだろうけどよ……」 他人の生き方に口を出せるほど、慎士はモノを知らない。ユーリを止める資格だって、本当はないのかもしれない。 しかし、それでも止めなければならないと思う。 「あいつは、鋼介が──オレの一番の大親友が、体張って守った女だ」 大事な親友の大事な人なら、自分にとっても大事な人だ。 ユーリが死地に赴こうとしているのなら、他の誰でもない、鋼介のために止めなければならない。 彼がいない今、その役を代わりに担う誰かが、必要だ。 「つっても、あいつの権利を無視する度胸もねぇから、無理だと思ったら、さっさと退くさ」 「……ずいぶん中途半端な親切だね」 「オレじゃあ、鋼介の代わりにもなれそうにねぇからな」 自嘲を含んだ笑みで、隣を駆ける端正な横顔を見やる。 白髪の下はしかめっ面だが、不思議と責めたり嫌がったりする雰囲気は感じられなかった。 「深入りはしねぇよ。それが他人の心なら、なおさらな」 誰の特別にもならず、ただ支え続けるというのは、本当にもどかしい。 けれど、そこが自分の選んだポジションだ。文句はない。
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