1章

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じっと傾聴していた宍戸は、しばしの沈黙を挟み、 「寂しい男だね」 全力で鼻で笑った。 「フラグのふの字も立ってねぇ野郎に言われたかねぇよ!」 「それは婚姻関係という意味かな? だったら残念、僕には既に許嫁がいる」 「ッ……だだ、だ、だからなん、何だってんだよ白髪! さっさとハゲ散らかせ!」 動揺を隠せない慎士に、余裕の嘲笑を見せる宍戸。 思わず拳を握りしめるが、それを放つ前に、装飾過少の北門に到着した。 さっそく敷地の外へ手を伸ばすのと同時に、 「……そんな風に生きるなんて、僕には逆立ちしたって無理だ」 聞き間違いかと思うくらい、小さな呟きが聞こえた。 「……」 「どうした? 行けるのかい」 「へ? あ、おう……」 「呆けていないで、さっさと動きたまえ。脳幹に雷を落とすぞ」 恐るべき脅迫を受け、意識を手のひらに集中させる。 こんにゃくのような弾力が、柔らかに指を跳ね返してくるが、突破できないわけではなさそうだ。 「行けなくはない」 「曖昧だな……ん?」 いつもの高慢なセリフが、最後の最後で訝しげな呟きに変わる。
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