1章

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見ると、宍戸の左腰にまばゆい光が発生している。武具召喚のようだが、様子がおかしい。 「どうした?」 「……どうやらあの森は、召喚術のような、他の世界との交信まで阻害するようだ。上手く呼び出せない」 忌々しそうに眉を寄せ、ようやく一振りの刀を具現した。 「武器一本でこの体たらくとなると、召喚獣を呼ぶなど、到底不可能だろうね」 「……マジかよ」 武器を使えるだけ、まだマシなのかもしれないが、援軍すら呼べない現実は、精神的に厳しいものがある。 慎士は表情を固くするが、宍戸の反応はあっさりしていた。 「まあいい。それより早く出たまえ」 「は?」 「間抜けな声を出すな。安全に通れる結界か否か、君の体で実験だよ」 「どこのマッドサイエンティストだよ、ったく……」 不満を吐いてみたものの、逆らわずに壁に突進する。数秒の格闘の後、苦もなく突破できた。 学園は市の北端に位置しているので、街を囲う巨木の群れも、割りと近くにある。 「……宍戸」 「何だい」 巨人のように立つ木々を見上げながら、宍戸が結界を抜けたのを察知して、話しかける。 目を合わせないことを咎められるかと思ったが、特に何も言われなかった。
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