1章

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「オレも、お前に言っておきてぇことがある」 「ほう。大して興味はないが聞いてやろう」 あんじゃねぇか、と心中でツッコミを入れながら、右──東へ向かって三歩行く。 宍戸は動かない。今度は着いてこないつもりのようだ。 (……それでいい) なるべく大勢を避難させる必要があるのだから、手分けするのは、むしろ必須とさえ言える。 単独行動は怖い。しかし、覚悟の上で外に出てきたのだ。四の五の言うことは許されない。 「……今は言わないでおいてやるよ。全部言ってたら日付が変わっちまいそうだ。片がついたら、その時にしっかり話してやらぁ」 「……」 ぴったり二秒の無言を返してから、宍戸は高らかな靴音と共に、慎士と反対方向に歩を進めた。 「つまり?」 「……」 あまり言いたくなかったが、彼は言った。 「死ぬなよ、宍戸」 「君もな、笹原」 鋭く声をかけ合って。 少年が二人、正反対の方角へ走り出す。 ────
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