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無言のまま辺りを見回すユーリに対し、タナトスは再び呟くような語調で語りかける。
「ルクスリアはどうだった。呆気なくて拍子抜けしたか」
ピアノを弾く指は止まらない。こちらに振り返る素振りもないし、声に感情を混ぜるつもりもなさそうだ。
聞き慣れた兄の声だというのに、仕草と態度が違うだけで、こうも印象が変わるものなのか。
謎の感慨にふけりながら、ようやく口を開いた。
「何の曲よ、それ」
「魔界の氷原地帯に住んでいた、とある少数民族の民謡だ」
存外普通に答えるのと同時に、細長い指が跳ねる。
ピン、という軽快な音は、調子を外しているようで、不思議とメロディーに溶け込んでいた。
「彼らは八十年ほど前に滅んだ。この曲を演奏する専用の楽器も、その製法も途絶えたため、完全な再現は二度とできない」
不意に演奏が止んだ。小さな椅子から立ち上がったタナトスは、初めてこちらに顔を向ける。
思えば、ユーリがタナトスの姿を直に拝むのは、これが初めてだ。
左目に眼帯をしていること、一つきりになった目が赤いこと、そして並々ならぬ殺意を漂わせていることを除けば、自分が覚えている兄と変わらない。
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