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「何の用だ」
今までの雑談が何だったのか、思わず考えてしまうほど、するりと話題が移された。
「自分の胸に聞いてみたら?」
「自分の口で言うのが怖いか」
「……」
握りしめようとした拳を解いて、代わりにスカートの裾を掴む。
今まで何度も触ってきた生地の感触が、ほんの少しだけ、しかし確実に平常心を取り戻させてくれる。
「……あんたを殺しに来た」
「殺されに来た、の間違いではないのか」
タナトスは片手で鍵盤蓋を閉じ、静かに向き直った。
足音も衣擦れの音も立てない。気配の代わりに害意を湧き立たせるタナトスは、もはや生物というより怨霊だ。
「過小評価するつもりはないが、貴様は私には勝てない。あらゆる能力が私より劣っているからだ」
断言し、靴底で軽く床を踏み鳴らす。
「さらに、この塔の外壁は魔力反応を遮断するように出来ている。ここで戦いが起きていることを、把握できる者はいない」
ランタンの炎が揺らめき、タナトスの顔を不気味に照らし出した。
氷のような視線の奥に、敵意と殺意が、煉獄のごとく燃え上がっている。
「一人孤独に死ぬと分かっていながら挑むことを、自殺行為と呼ばずして何という」
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