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自分に害を加えたことがない、そもそも関係すら薄い生き物であっても、憎悪と嫌悪に満ちた目で見ることができる。
そんな生物は、この世に人間と魔族だけ。
タナトスはどちらでもない。肉体を得た今だからこそ、辛うじて魔族とみなすことができるほどに、曖昧な生き物。
(……でも)
それでも、タナトスにも心があるという事実に変わりはない。
深呼吸を挟んで、相手の顔を睨みつける。怯む様子もない強敵に、質問を返す。
「あんたは、どうして人を殺すの?」
対するタナトスは無反応。微動だにせず、ユーリの顔を睨み返している。
「魔族も人間も皆殺しにして、社会の仕組みも壊滅させて、その後どうしたいの?」
自分を作り、殺そうとした魔族たちは、もうどこにもいないのに。
彼らの子孫を皆殺しにしたところで、何も得られるものなどないはずなのに。
無関係の生物しかいない世界に、確固たる心を持ったまま、たった一人で牙を剥いて。タナトスは一体どうしたいというのだろう。
「……」
疑問を投げかけられてもなお、彼は彫像のように固まったまま動かない。
グランドピアノの前に立ち尽くす彼に、襲いかかってくる気配はないが、ユーリはまったく油断しない。
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