1章

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──── 桜峰市中心部に位置する、サクラ中央ビルの地下で、 「これは一体どういうことでしょうか?」 木宮 優は、ゆったりと尋ねた。のんきとさえ言える声は、二階まで吹き抜けになった談話室に反響する。 吊るされた部下の血と死骸が、鮮烈な装飾と化したそこで、彼は数十人の魔族に囲まれていた。 全員、顔を隠しているが、正体は間違いなくフォーラット家の私兵団だろう。 「おやおや。その程度も分からないほど、落ちぶれたわけではありますまい」 集団の向こうで、肥えた体を揺するように笑う男は、リグベル。フォーラット家の分家当主の一人だ。 皮肉めいたセリフと共に、無遠慮な軽蔑の視線を向けてくる。 彼は常日頃、こんな眼差しで目下の者に接しているのだろう。想像しながら微笑む。 いつも以上に、仮面のような笑顔になった。 「申し訳ありません。いささか以上に受け入れがたい現実なので、戸惑ってしまいました」 続いて、部屋中に目を走らせ、相手の戦力を確認する。 ざっと数えて七十人強。種族はまちまちだが、いずれも強者の風格を漂わせる。
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